日本政府、スパイ防止法の検討着手　防諜体制整備へ

スパイ防止法そのものは、主権国家として本来あって然るべき制度だ。主要先進国は共通して、防諜・情報保全に関する包括的な法律と情報機関を持ち、国家機密の漏洩や外国勢力による工作を刑事罰の対象としている。日本だけが明確な包括法を欠いたまま今日に至ったことは、安全保障上の弱点であることは否定できない。

一方で、5ちゃんねるでも多く指摘されている通り、日本で最大の問題は「誰が、どの範囲で、どのように運用するのか」という統治能力と制度設計への不信だ。対象や定義が曖昧なまま成立すれば、実際のスパイ行為よりも、政権批判や報道、学術・言論活動が萎縮する危険が現実化する。特に「反対する者＝スパイ」という短絡的な言説は、民主主義国家として極めて危うい。

重要なのは、①スパイ行為の定義を具体的かつ限定的にすること、②捜査権限に強い司法的コントロールをかけること、③政治家・官僚自身も例外なく適用対象とすること、④独立した監視・検証機関を設けることだ。これが欠ければ、防諜法ではなく「権力保全法」になる。

結論として、法整備自体には合理性があるが、日本の政治文化と運用実態を考えれば、拙速な成立はリスクが高い。安全保障と自由の両立は可能だが、それには徹底した制度設計と透明性が前提になる。今問われているのは法の有無ではなく、国家としての成熟度だ。